Creamオープニングイベントレポート|後編ートークセッション
トークセッション「福井とクリエイティブの幸せな関係」
トークセッションは、講師の山出氏とfuccoの代表理事・景山直恵さん、ならびに同理事の坂田守史さん、新山直広さんが登壇。山出さんと新山さんは今年度グッドデザイン賞の審査員をされていたことから、グッドデザイン賞で今、どんなことがディスカッションされているかなどの話からはじまり、グッドデザイン賞の審査を通じて今感じていることからスタートしました。
坂田:今年、(株)ジャクエツの「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」が福井県で初のグッドデザイン大賞を受賞するという嬉しいニュースがありました。グッドデザイン賞はさまざまなクリエイターが注目し、そこで今、どういった議論をされているのかということにも気になるのですが、今年審査に関わったお二人からはどのように見られていましたか?
新山:今年はじめて審査員を務めさせていただきました。山出さんと同じ「地域の活動・取り組み」というユニットで、審査をご一緒させていただきました。グッドデザインの審査は、ガチンコで議論されていて、それぞれの視点を読み取りながら対話していました。担当していたユニットからは、「スタディツアー」というのが金賞を受賞されました。「スタディツアー」は学校でも創造性を考えていかなければいけないという時代であると感じました。
大賞の発表では、「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」が受賞され、会場がどよめき、新しい時代のはじまりを祝福しているようなことを感じました。これまで、大賞を受賞された「おてらおやつクラブ」や「チロル堂」などは、コトを中心としたソーシャルな取り組みが大賞を受賞されることがあり、「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」は、遊具というモノと社会的な課題のコトが合わさったものが大賞をとったというのは、今の時代性を感じました。
山出:グッドデザイン賞に関わって、最初の書類審査から5000件を越えるものが集まって、ユニットリーダーは、全体会でも議論することになるので、ザッと全て見ていました。1次審査を通ったものを見て、ベスト100のプロジェクトを決め、ベスト20、そして大賞の選定と、かなりの時間を費やしました。
ユニットリーダーの全体会では、それぞれの視点が違いかなり喧々諤々とした議論が繰り広げられます。
先ほど話のあった「おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えで集まる缶詰やお菓子など消費されないものを、全国の困った人たち、例えば児童養護施設などに配送する仕組みです。
こういったコトのデザインが最近の受賞で多くあり、モノのデザインが上位の選定になりづらくなってきたという、モノ対コトのようなことも生まれてきたのは、問題視されてきて、審査会では、そうならないように議論をしています。しかし、どうしてもコトのデザインの方が注目されがちです。なぜなら、困っている人が思い浮かべやすいからです。モノの場合、便利さという点にも目がいきがちです。ジャクエツさんの「RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト」は、遊具というモノと医療的ケア児と健常な子どもが一緒に遊べるというコトがあり、モノとコトが共存しているという点は、実はこの数年間のグッドデザイン賞の中で、とても意味のあることと強く感じています。
応募されたデザインの一つ一つに対して、これがどうやってできていて、誰が関わっていて、それによってどのように社会が変わってくるか、これが評価されることによって、社会にどんなメッセージを与えられるかということを審査員はものすごく考えています。また、グッドデザイン賞が世界に向けて、これが日本のデザインだということをメッセージするものでもあります。
坂田:ありがとうございます。山出さんの基調講演の中に、「創造力=資本」という話があり、私たちにとって、視点の変わる言葉だと思いました。今までだと、資産価値を生み出すものに対して投資をするという考えがあり、20世紀の都市モデルの話と同じような構造なのかなと思いました。産業に対して投資をするのではなく、人や場に対して投資するのがこれからだと考えるならば、資源に対してまず投資をするということが、これからの時代なのだと感じています。今年のグッドデザイン賞のメッセージの中には、「モノのまわりにあるコト、コトのまわりにあるモノ」ということも考え方の中間領域を指し示しているように感じています。
私は、仕事で10年以上、大分県に通ってまして、これまで山出さんが取り組んで来られたことを見てきて、別府の風景や人の変化というのも感じています。山出さんが別府で取り組みはじめてきたことから、どう変化してきたかと感じていますか?
山出:別府に帰ってきたのが2004年、それから20年継続してきました。20年やり続けていると、BEPPU PROJECTに就職する若い人は、その人が子どもの頃から取り組みを見てくれていたということがあります。継続してきたから変わってきたというのはあります。例えば大分県と仕事をしていて、行政の人たちも変わってきた。色々な体験をするというのが大事で、教育や商業、芸術祭を開催したり、振り幅があるのが重要かと思います。それによって、アートってこうじゃなきゃいけないということからどんどん離れていけて、アートって何だ?っていうことを考える。これは社会に対しても、同じようなことが言えると思います。
新山:福井では、デザイナーの価値というのを景山さんや坂田さんが上げてきたと思うのですが、このタイミングで、デザイナー協会ではなく、クリエイター協会としたことが大きなことで、自分にとっては応援をもらったように感じています。坂田さんは、アートの取り組みも行っていますが、その点からも聞いてみていいですか?
坂田:コロナ禍の時に、アーツ&コミュニティふくいという団体を仲間たちと立ち上げました。アーティスト支援だけでなく、文化芸術にもう少し柔らかい土壌が福井にあるといいなと思い、クリエイティビティやデザインということを考えていく中で、アートの定義のわからなさというのをいろんな人が受けとめていくと、優しくなっていくんじゃないかと思ったのが立ち上げた動機の一つです。
コロナ禍の時に、アーティストが活動できないという問題もありましたが、自分の自由や命すらも制度にがんじがらめにされている社会になっているというのを強く感じました。医療や教育にも制度の窮屈さというのが無意識下にあり、そういった状況の中から、自分でどうやって立ち上がっていくかを考えた時、いろんなことに対してやさしいまなざしをもったり、さまざまな視点をもつことにアートが必要なんじゃないかと思い、文化芸術の土壌を育んでいくことが大切なのではと思いました。そういったことは、デザインやクリエイティビティというのも地続きにあるものだと思っています。
新山:景山さん、あらためて、Creamを立ち上げるまでも色々と苦労があったかと思いますが、大きなムーブメントが生まれる今、どのように感じていますか?
景山:ここまでのアートやクリエイティブの話の中で、Creamという場が生まれてきたということも感じている一方、一般の人にとっては、敷居が高いのかなとも思っています。福井はまだまだアートやクリエイティビティについては、まだまだ遅れているところがあると思います。なぜそうなのかな、と考えると、アートやクリエイティビティというのは、余裕のある人たちがやることなんでしょ?と、言われたこともあります。そういうのを聞くと少しさみしくなります。これまでそういった接点がなかったのかなと思い、Creamができたことによって、そういった意識も変わってくるのかなと思っています。
坂田:別府も山出さんが取り組みをはじめた頃は、アートに一般の人が関心をもっていたわけではないと思うのですが、どうですか?
山出:別府もそういう関心があったかというとそうではなく、私はアーティストであり、仕事をするとなると美術館と仕事をすることがが多かった。本当はストリートからはじまっているのだけど。芸術祭もやってみて、少し違うなと思い、市民文化祭をやるようにしました。市民がなんでもいいから発表できる場をつくりました。6歳の子が塗り絵をする場をつくったり、おじいさんが盆栽を展示したり、いろんな人たちが集まってきました。それをみて、人間のクリエイティビティというのはつくるものではなくて、溢れ出るものなんだなと思いました。1ヶ月ぐらいの期間で100組ぐらいの方が参画しました。
ストリッパーとアーティストがコラボするプロジェクトもやりましたが、こういったたまには刺激も必要で、想像できるようなものではダメで、そんなことあってもいいのかもね、というようなことがなければ、日常が閉塞してしまう。
坂田:別府は人口も11万人規模で、そこまで大きくない、人口の60倍ぐらいの観光客が来る街ではあるけれど、福井でもアートやクリエイティビティの印象が変わっていく可能性があるというのを、今の山出さんの話からも感じます。
新山:文化芸術に関する予算というのはそう多くはないと思います。山出さんがキュレーションをされていたり、多くの人も関わっていると思いますが、どういう座組で行っているのですか?
山出:予算や座組をスタートに考えていくことより、ビジョンから考えていくことが重要で、近い将来像を描き、それを実現していくためには、今の現実とのギャップを埋めていくことが必要になります。
例えば、芸術祭を実施するゴールを決める、それを実現するには、アーティストの選定や作品づくりを行わなければいけない、お客さんが来るなら地域のホスピタリティや紹介する本も必要ということが起きます。そこから逆算的に、別府を紹介する本はいつつくったらいいのか、アーティストの選定はいつしたらいいのか、などを考えていくと、芸術祭の実施という一つの事業が分解されて、6つや7つの事業になってくる。それをすべて事業化してきました。逆から考える、分解して考える、そこから事業化していくとスピンアウトするように会社も生まれてくる。そうすると、私がやっていることは生態系をつくっていることになります。
坂田:ビジョンという全体像からつくっていくことは、これからの視点だなと思います。基調講演でもあった「CREATIVE PLATFORM OITA」の取り組みでも、事業“後”のビジョンをつくってから組み立てていくという話がありました。
山出:自走できるようにすることが大事で、「CREATIVE PLATFORM OITA」では、これからの地域社会にどんなことが必要なのかというビジョンを描き、そこに到達するには、どんなクリエイターと企業が出会うといいのかということを考えて、クリエイターを数名紹介して、企業が選ぶということをやっています。ビジョンに向かっていくためには、どのプロセスが抜けているか、そこに必要となる座組はなにか、必要となる登場人物は誰が必要か。マンガで例えると、不確定要素のある最後は決まっているが、途中の吹き出しのセリフに隙間が多いマンガ、ここでこの登場人物になんて言わせようかということを考えながら組立てをしていることに近いです。
新山:私は、大阪から移住してきて、なんで福井なの?と言われるのはいやで、RENEWを10年やってきて、地域が風景も変わってきて、そのイメージも変化したかと思っています。この福井も街が新しく変化してきて、これから10年、20年のスパンを考えて自分たちがいい街でしょ、と言えるのかを考えています。そういう人たちをどう増やしていくか。ハードが先行するのではなく、さまざまな人が交ざり合っていく、まさに「Cream」のような、そういうところから生まれる街の可能性について今興味をもっています。
山出:先ほど、景山さんから、この街は新しいことやクリエイティビティに関して一般的なところまで浸透していないというお話がありましたが、私から見ると、福井県はとても先駆的な取り組みを行っている地域というイメージがあります。最初に福井に来たのは、10年以上前に女性活躍推進についての話をして欲しいと呼ばれたのを覚えています。それに、XSCHOOLやRENEWや鯖江などすごい、おもしろいことや新しいことが出る地域だと思います。北前船の歴史も関係しているのか、新しいものを受入れる土壌があると感じますよ。そして、ワンチーム感をすごく感じます。ここに新しい人が入って来てほしいし、新しいチャレンジが生まれていって欲しい。何かにチャレンジする人を応援する土壌があれば、もっと福井はおもしろくなるんじゃないかと思います。度々行きたい地域というのは、会いたい人がいるというのが重要で、福井は人に投資している地域だと思うので、もっといろんな人に出会えるようになるような、この「Cream」という新しい場に期待しています。
基調講演やトークセッションから、失敗をおそれずチャレンジすること、ビジョンを描き逆算的に事業を組み立てていくことなど、さまざまなお話から、ふくいクリエイティブホーム「Cream」としては、クリエイティブ支援の拠点として、クリエイターと企業が交わって「くっつくる」状況をつくっていきますので、ぜひ、ご活用ください。
交流会
ULOで行われた交流会では、デザイナーやさまざまなクリエイターの方の他、県内企業の方も多く参加され、100名を越える方にお越しいただけました。
あらためて、Creamの紹介や福井県クリエイター協会の紹介もさせていただき、トークセッションでもあった、福井のワンチーム感を感じさせる交流会となりました。